サイバー攻撃の高度化により、「気づいていない脆弱性」が組織の最大のリスクになりつつあります。
その中で注目されているのが「アタックサーフェスマネジメント(ASM)」です。
従来の防御策とは異なり、攻撃者視点で外部公開資産を“棚卸し”し、盲点をあぶり出すという特徴を持ちます。
本記事では、ASMの基本的な機能や表面的な利点にとどまらず、導入することで初めて見えてくる“隠れたメリット”に焦点を当てて解説します。
読み終える頃には、ASMの本質的な価値と、導入がもたらす業務・経営への波及効果を、より具体的にイメージできるようになるはずです。
ASMが注目される背景と基本的な役割
アタックサーフェスマネジメント(Attack Surface Management)は、サイバー攻撃が日々巧妙化する現代において、攻撃対象となる「表面領域=アタックサーフェス」を常時可視化・監視・管理するソリューションです。
従来のセキュリティ対策では、社内ネットワーク内の資産や脆弱性を中心に対処が行われてきましたが、クラウド利用の増加やテレワーク環境の普及により、社外にも多くの公開資産が分散するようになりました。
その結果、企業が自覚していない外部資産がサイバー攻撃の起点となるリスクが急増しています。
たとえば、放置されたサブドメインや、退職者が管理していたSNSアカウント、試験運用のクラウドストレージなど、攻撃者が踏み台にするポイントは思いがけない場所に存在します。
ASMは、こうした「企業が知らない外部資産」まで含めて洗い出し、構造的な攻撃対象の全貌を可視化できる点が最大の特徴です。
攻撃者が利用する手法と同じ観点で資産を調査する「攻撃者視点」は、従来の脆弱性診断とは大きく異なります。
単なるパッチ管理やルール設定にとどまらず、「そもそも何が攻撃対象になり得るか」を明らかにするという点で、ASMは近年のゼロトラストやXDR(Extended Detection and Response)とも親和性が高いアプローチといえるでしょう。
ASMは今や、大企業だけでなく、中堅企業や自治体、医療機関にも導入が進み始めています。
背景には、攻撃の自動化・スケーラブル化が進み、あらゆる規模の組織が“無差別に狙われる時代”になっていることがあるのです。
このように、ASMは「守る」ためだけのツールではなく、「知らなかった自社の姿を知る」ための“鏡”のような存在ともいえるでしょう。
この先のパートでは、こうしたASMの隠れた効能に光を当てていきます。
表に出にくいASMの“隠れた効果”とは?
ASM(アタックサーフェスマネジメント)と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは「脆弱性の可視化」や「攻撃対象資産の洗い出し」といった直接的なセキュリティ機能かもしれません。
しかし、ASMを実際に導入・運用した組織では、こうした表面的なメリット以外にも、導入前には想定していなかった“隠れた効果”が数多く報告されています。
これこそが、ASMの真価が発揮されるポイントといえるでしょう。
まず第一に挙げられるのは、「IT資産の棚卸しと整理の副次的効果」です。
ASMツールは、外部からアクセス可能なWebサイト、サーバー、IPアドレス、クラウドリソース、公開APIなどを包括的に検出・分類するため、社内でも把握しきれていなかった“野良資産”や過去プロジェクトの残骸が浮かび上がります。
これはセキュリティだけでなく、情報資産管理や業務棚卸しにもつながる重要な情報となります。
次に、「組織内コミュニケーションの促進」という側面も見逃せません。
ASMによって発見された未登録のクラウド環境や利用停止されたサーバーについて確認を行う過程で、IT部門だけでなく各業務部門との情報連携が必要になります。
このプロセスは、部署間の断絶を埋める“接着剤”のような働きをし、組織全体のセキュリティ意識の底上げにつながるのです。
また、「資産ライフサイクルの見直し」にも貢献します。
企業にとって、IT資産が“生まれてから消えるまで”を適切に管理することは理想ですが、実際には構築後に放置されてしまう資産も少なくありません。
ASMはこうした“運用フェーズに埋もれた資産”を掘り起こし、不要であれば停止や削除、必要であれば管理下に置くという判断を促します。
その結果、ITコストの最適化やリスク低減につながるのです。
さらに、ASMは「企業ブランディングの一環」としても捉えることができます。
たとえば、企業の古いプロモーション用サブドメインや、ブランド名を冠したSNSアカウントが放置されたままになっていた場合、万が一これらが乗っ取られてしまうと、社会的信用の失墜に直結します。
ASMはこのような“見られているが放置されている資産”を発見し、ブランドガバナンスの強化を助けるのです。
他にも、ASMツールが提供するダッシュボードやレポートは、経営層への報告資料としても有用です。
資産の可視化結果やリスク評価を、数値やグラフとして示せることで、セキュリティの重要性を直感的に伝える材料となります。
これにより、経営判断においてセキュリティが“コスト”ではなく“投資”として認識されやすくなるという二次効果も生まれます。
このように、ASMの隠れたメリットは、直接的な防御機能にとどまらず、業務改善・組織改革・経営支援といった多方面に波及します。
ASMを“攻撃対象を管理するツール”としてだけ捉えるのではなく、“自社の状態を客観視する鏡”として活用することが、導入価値を最大化する鍵といえるでしょう。
ASMがもたらす業務効率の向上と可視化の力
アタックサーフェスマネジメント(ASM)は、外部資産の可視化とリスクの把握に優れたツールであると同時に、結果として組織の業務効率向上にも大きく貢献します。
一見セキュリティ専用のソリューションに見えるASMが、実は「IT運用の整理」と「作業工数の削減」を促す存在でもあるという点は、見過ごされがちな利点といえるでしょう。
まず、ASMが行う「自動スキャンと資産リスト化」は、IT管理部門にとって極めて有用です。
従来であれば、IT資産の棚卸しにはエクセルによる手動管理や、部門からの聞き取り調査など、膨大な工数がかかっていました。
しかしASMを活用すれば、外部に存在する自社資産を漏れなく洗い出し、IPアドレス、ドメイン、サービス、SSL証明書の有無といった情報も自動で整理されます。
この“自動整理されたデータ”があることで、脆弱性診断の前提となるスコープ設定が明確になり、不要な調査を省くことが可能になります。
結果として、診断会社との連携もスムーズになり、発注〜報告までの期間短縮にもつながります。
また、CI/CDパイプラインにセキュリティチェックを組み込んでいる開発部門では、ASMによって外部資産の変動が検知されることで、予期せぬリスクに即時対応できるという“スピード対応力”の向上も期待できます。
次に、ASMの可視化レポートは、定型業務の「見直し」や「棚卸し」を支援します。
たとえば、開発が完了したプロジェクトの一部で、外部公開されたAPIエンドポイントが削除されずに残っていたケース。
ASMがこの情報を自動検出し、担当者に通知することで、不要資産の整理が行われ、将来的な情報漏洩リスクの芽を摘むことができます。
こうした作業は、通常の運用では見逃されがちな“業務の死角”に光を当てる効果があり、セキュリティと業務効率の両面に資する動きとなるのです。
さらに注目すべきは、ASMによって得られるデータが「社内共通言語」となる点です。
ASMダッシュボードでは、発見されたリスクの内容、優先度、対処の推奨アクションが一覧化されます。
この情報をもとに、情シス担当者、開発者、クラウド担当、広報など複数部門が同じ指標を前提に会話できることで、意思疎通のスピードが格段に上がります。
つまり、ASMは「業務の可視化」と「コミュニケーションの円滑化」という二重の役割を担うツールとなっているのです。
また、マルチクラウド環境が主流となった現代において、どのクラウドベンダー上に、どのような資産が展開されているかを一元的に把握することは、企業のIT統制の根幹に関わります。
ASMはベンダー横断的な資産検出が可能であるため、AWSやAzure、GCP、SaaSツールといった多様な環境下でも管理負荷を軽減できるメリットがあります。
このように、ASMはセキュリティ領域だけでなく、業務改善・部門間連携・作業効率の面でも組織全体に価値をもたらす存在です。
“セキュリティ専用ツール”という狭義で捉えず、“業務最適化ツール”として位置づける視点が、より実践的な活用には不可欠といえるでしょう。
経営層にも好影響?ASM導入で得られる組織的メリット
アタックサーフェスマネジメント(ASM)の導入効果は、現場のセキュリティ担当者にとどまらず、経営層やマネジメント層にとっても意義深い影響を与えることがわかってきています。
一見すると、技術的で専門的なツールであるかのように思われるASMですが、その導入は実は「組織全体の経営意識や文化」にも波及する効果を秘めているのです。
まず特筆すべきは、「経営層がサイバーリスクを定量的に理解できるようになる」という点です。
多くの企業では、セキュリティ対策が経営会議で議題に上がったとしても、その内容が専門的すぎて、経営層が直感的に理解するのが難しいという課題があります。
しかし、ASMが提供するダッシュボードやレポートは、攻撃対象資産の数、脆弱性の数、リスクの種類といった情報を定量的に、視覚的に提示するため、経営判断の材料として扱いやすくなるのです。
これにより、セキュリティ投資が「不明確なコスト」ではなく、「リスク低減というリターンをもたらす投資」として認識されやすくなります。
経営層にとって、ASMは“リスクの地図”を提供してくれる存在であり、経営資源をどこに集中すべきかを判断する指針となるといえるでしょう。
次に挙げられるのが、「全社的な情報統制の強化」です。
ASMを導入すると、組織内の各部門が独自に展開していたクラウド環境やWeb資産が一元的に可視化されるようになります。
これは、いわゆる“シャドーIT”の摘出と是正につながり、企業の情報統制レベルが一段階引き上げられることを意味します。
また、こうした可視化と管理強化は、コンプライアンス対応にも貢献します。
たとえば、ISO/IEC 27001やNIST CSFなどの国際的なセキュリティフレームワークでは、資産管理や外部委託先リスクの把握が求められますが、ASMを活用することで、これらの要件を網羅的かつ自動的に満たすことができるようになります。
結果として、ガバナンス強化や第三者監査への対応も容易になるのです。
さらに、「セキュリティ文化の醸成」という観点も重要です。
ASMは導入時だけでなく、運用フェーズでも継続的に資産をスキャンし続けます。
この“常時監視”という特性は、組織全体に「常に見られている」「今の状態が記録されている」という意識を生み出します。
それが、IT担当者だけでなく、全社員にとっての“セキュリティ意識の土壌”となっていくのです。
実際に、ASMを導入した企業では「部門単位でのクラウド資産申請時に、セキュリティチェックリストが自発的に導入された」「プロジェクト終了時にASMダッシュボードを確認してからリリースする運用が定着した」など、文化的な変化が現れてきているという報告もあります。
最後にもう一点。ASM導入は「セキュリティチームの立場向上」にもつながります。
多くの企業において、情シス部門やセキュリティ担当は“コスト部門”として扱われがちです。
しかし、ASMによって可視化されたリスクを経営層と共有し、そこから具体的な改善アクションを導いた場合、その活動は「価値創出」として正当に評価されやすくなります。
これは、セキュリティ担当者自身のキャリア形成にもつながるポジティブな循環を生み出します。
単なるツール導入ではなく、組織の中でASMが“共通言語”となり、経営と現場をつなぐハブとなること。
これこそが、ASM導入の隠れた、しかし極めて本質的なメリットだといえるでしょう。
他のセキュリティ対策との比較で見えるASMの真価
アタックサーフェスマネジメント(ASM)の導入を検討する際、よくある疑問のひとつが「既存のセキュリティ対策と何が違うのか?」という点です。
多くの組織では、すでにファイアウォール、IDS/IPS、EDR、SIEMなどのツールやサービスを導入しており、それらとASMがどう補完・差別化されるのかを正しく理解することは、投資判断の鍵となります。
まず前提として、ASMが担うのは“事前防御”の領域であり、「攻撃される前に、攻撃対象を減らす」というコンセプトが根底にあります。
これは、インシデント発生後の対応を支援するEDR(Endpoint Detection and Response)や、異常を検知して通知するSIEM(Security Information and Event Management)などの“事後検知”型の製品とは対照的な立ち位置です。
つまり、ASMは“リスクの入口”を減らすことに主眼を置いているのです。
たとえば、EDRがインシデント発生時にエンドポイントでの挙動を検出・隔離するのに対し、ASMはそもそも攻撃者が侵入口にできそうな“未管理の公開資産”を発見し、事前に対策を講じるというアプローチを取ります。
これは、「見つけられなければ、守れない」という原則に則った極めて基本的かつ効果的な方法論です。
次に、ASMと脆弱性スキャナ(VA:Vulnerability Assessment)の違いを整理しておきましょう。
VAは基本的に、既知の脆弱性や設定ミスを洗い出すことに特化したツールです。
内部ネットワークやDMZに対して定期的な診断を実施し、CVSSスコアなどをもとにリスクを評価します。
一方、ASMは「企業が認識していない公開資産」を含めて可視化できる点に特徴があります。
つまり、VAは“知っている資産の穴を調べる”のに対し、ASMは“知られていない資産の存在そのもの”を明らかにする機能を持っているのです。
この違いは非常に本質的で、攻撃者が利用する攻撃手法が“無差別スキャン”や“ドメイン乗っ取り”、“シャドーITの悪用”といった、企業側の認識外を突くものになっている現代においては、ASMの役割がより重要であることを意味します。
また、ASMは脆弱性の有無だけでなく、SSL証明書の期限切れ、古いCMSバージョン、無効なDNSレコードなど、多岐にわたる“状態異常”を検知します。
これにより、「今すぐに攻撃されるわけではないが、放置すればリスクになる」という“将来的な脆弱性の芽”を事前に摘み取ることができるのです。
さらに、ASMは他のセキュリティ施策と連携することで相乗効果を発揮します。
たとえば、ASMによって特定された新たな外部資産をSIEMに連携すれば、その監視対象を自動的に拡張できます。
また、ASMのスキャン結果をもとにEDRのポリシーを調整することで、カバー範囲の抜け漏れを防ぐことも可能です。
他業界における考え方に例えるなら、ASMは“建物の設計図を再確認する行為”に近いといえるでしょう。
たとえば、建築業界では、完成後に耐震補強を行うよりも、設計段階で地盤調査をしっかり行い、基礎構造を明確にしておく方がはるかに安全で合理的です。
同様に、ASMは「組織のセキュリティ構造そのものの健全性を再確認する行為」であり、それゆえ導入の意義は大きいのです。
このように、ASMは既存のセキュリティ施策と“どちらか”の関係ではなく、“共存・補完”の関係にあります。
むしろASMのようなアプローチがなければ、既存の防御策は“守る対象が曖昧なままに守っている状態”ともなりかねません。
ASMによって初めて、セキュリティ対策の前提条件──すなわち「何を守るのか」が明確になるといえるでしょう。
まとめ:ASM導入によって得られる新たな視点と可能性
アタックサーフェスマネジメント(ASM)は、単なるセキュリティ対策ツールとして導入されることが多いものの、実際にその機能を活用し始めると、組織全体に波及する“副次的なメリット”が多く存在することに気づかされます。
本記事では、ASMの基本的な役割に加え、導入企業が得ている隠れた利点や経営層への波及効果、他のセキュリティ対策との比較による特徴などを多角的に整理してきました。
まず注目すべきは、「攻撃者視点での可視化」という根幹機能がもたらす“気づき”の深さです。
自社が管理していると思っていた資産の外に、想定外の公開情報や放置されたサブドメイン、意図せぬ形で残ったAPIエンドポイントなどが存在する現実は、セキュリティ対策の“出発点”を大きく揺さぶるものでしょう。
この“見落とされがちな攻撃対象”を明らかにすることこそが、ASMの最大の価値です。
さらに、ASMの導入は業務効率の改善やIT資産の棚卸し、組織内コミュニケーションの円滑化といった、副次的ながら無視できない波及効果を生み出します。
運用上の無駄を排除し、情報管理を一本化するための“インフラ的な基盤”としても、ASMは役立つのです。
経営層にとっても、ASMはセキュリティ投資のROIを視覚化するツールとして機能します。
従来のように「脅威に備えるために仕方なく投資する」から、「可視化されたリスクに基づいて、戦略的に投資を配分する」フェーズへと移行できるようになります。
このような姿勢は、ガバナンス強化やステークホルダーへの説明責任を果たすうえでも極めて重要な要素といえるでしょう。
また、ASMは他のセキュリティ施策と重複するものではなく、むしろそれらの“土台”となる存在です。
EDRやSIEM、VAといったツールは、守る対象が明確になってこそ効果を発揮します。
ASMはその“守るべき対象”を洗い出すことで、あらゆるセキュリティ施策の前提条件を整え、組織全体のセキュリティ態勢を実効的に底上げするのです。
これらを踏まえると、ASMはもはや“あれば便利なオプション”ではなく、“なければ成り立たない基盤”へと進化しつつあります。
特に、ゼロトラストやクラウドシフトが進む現代において、組織のIT環境は複雑化・断片化し続けており、ASMのように動的で継続的な可視化を担う仕組みは、今後ますます不可欠になると予測されます。
最後に強調しておきたいのは、ASMはツールとして導入すること自体がゴールではないという点です。
ASMをきっかけに、組織のIT資産管理の在り方を見直し、セキュリティへの姿勢そのものを刷新すること。
それが本質的なASM活用の姿であり、競争優位性を高めるための“視点の転換”に他なりません。
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