ASM(攻撃対象領域管理)は、近年のサイバー攻撃の複雑化に対応するため、多くの企業が導入を進めるセキュリティ手法です。
しかしその導入過程で、思いもよらない「意外な脆弱性」が明らかになるケースが少なくありません。
本記事では、ASMによって発見されやすい脆弱性の実例や、企業が陥りやすい盲点、そして対策のヒントをわかりやすく解説します。
「うちは大丈夫」と思っていた企業が、なぜ思わぬ箇所から攻撃を受けたのか。
その背後には、ASMが可視化する“気づかれない穴”の存在がありました。
この記事を読むことで、ASMの本質的な役割と、企業が見落としがちな脆弱性の種類について理解が深まります。
また、ASM導入の際に注意すべきポイントや、運用面での課題にも触れ、単なる導入で満足しない「活用」のヒントをご紹介します。
ASMが突き止めた「意外な脆弱性」の正体

ASMを導入した企業の多くが、最初に衝撃を受けるのが「意外な資産が攻撃対象になっていた」という事実です。
これまでのセキュリティ対策では見過ごされていたIT資産が、実は外部から容易にアクセス可能で、攻撃者にとって都合のよい“入口”となっているケースが少なくありません。
たとえば、キャンペーンや特設イベント用に作られた一時的なサブドメインが、キャンペーン終了後もDNS上に登録されたまま残っている。
ドメインの管理が停止されていれば、第三者がそのドメインを取得し、偽サイトを公開することができます。
このような状態では、企業のブランドや信頼を悪用したフィッシング詐欺やマルウェア配信が簡単に行われてしまいます。
さらに、テスト環境や開発中のアプリケーションが本番と同じインフラ上に存在し、誰でもアクセスできる状態になっている例もあります。
開発チームが一時的に公開したURLが、社内で忘れ去られてそのまま放置されている。
そこには、実運用とは異なるログインロジックや、デバッグ用の情報表示が含まれていることもあり、攻撃者にとっては脆弱性の宝庫となるのです。
また、外注先や委託業者が構築したクラウドリソースやストレージが、契約終了後も管理されずに外部公開されたまま放置されているケースも深刻です。
たとえば、AWSのS3バケットがパブリック設定になっていたり、Google Cloud Platformのプロジェクトが誰でもアクセス可能な状態になっていたりする事例が多発しています。
しかも、それらは“本社側のIT部門が一切認識していない”こともあるため、内部監査や通常の脆弱性診断では検出されにくいのです。
このような盲点を浮き彫りにするのがASMの強みです。
ASMは、企業が保有する可能性のある全資産を網羅的に洗い出し、ドメイン、IPアドレス、SSL証明書、DNSレコード、クラウド設定、Webサービス、SNSアカウントといったあらゆる情報を横断的に解析します。
このプロセスによって、経営層や情報システム部門が「把握していなかった」資産が次々と見つかるのです。
とりわけクラウド移行後の資産管理は、極めて複雑です。
オンプレミス時代は明確だった機器・ネットワーク構成が、クラウド導入により“抽象化”され、管理の境界線が不明瞭になります。
加えて、各部門が独自にSaaSを導入する「シャドーIT化」も加速しており、全社的な資産管理が困難な状況です。
こうした背景を踏まえると、ASMが突き止める脆弱性とは、「見えていなかった攻撃対象の存在そのもの」だといえるでしょう。
つまり、技術的な脆弱性ではなく、管理・認識の盲点こそが最大のリスクであり、それを浮かび上がらせるのがASMの本質的価値なのです。
企業が見落としがちなリスク資産の種類とは

ASMが明らかにするのは、単なるサーバやネットワーク機器のセキュリティリスクではありません。
それ以上に企業が見落としがちなのは、「自社が保有しているとすら認識していなかった資産」の存在です。
こうした資産は、いわゆる“シャドーIT”に分類されます。
従業員が独自に契約して使っているSaaSツールや、外注先が構築したテスト環境、共同プロジェクト用のファイル共有クラウドなど、組織のセキュリティポリシー外で運用されているリソースです。
これらは正式な棚卸しの対象外であるため、企業の管理下にないという“透明資産”となりがちです。
典型的な例としては以下のようなものがあります。
- 公開期限を過ぎたWebサイトやLP(ランディングページ)
- 使われなくなった旧アプリのAPIサーバ
- GitHubやGitLabに残された設定ファイル・アクセストークン
- セールスチームが使っていた顧客管理ツール(SaaS)
- 無効化されたVPNアカウントや共用IDの残骸
- 社内イントラネットから誤って公開されている内部情報
これらのリスク資産は、「使っていないから問題ない」と思われがちですが、実際にはその油断こそが最大のセキュリティホールとなります。
たとえば、GitHubの公開リポジトリにアクセスキーが残っていた場合、それを使って攻撃者がAWSへ侵入するルートを確保することも可能です。
このような資産は、監査部門や情報システム部門が気づかない限り、長期間にわたってリスクとして放置されてしまいます。
さらに厄介なのは、外注先やグループ会社が構築した資産です。
プロジェクト終了後に削除されるはずの環境がそのまま生きていたり、契約終了後にもSaaSの管理権限が委託先に残っていたりするケースがあります。
これらは一見すると「もう関係ない」もののように思えますが、攻撃者にとっては“残された裏口”です。
ASMはこうしたリスク資産を、「インターネットから発見可能な情報」として検出します。
逆に言えば、攻撃者と同じ視点で可視化しているという点に、ASMのアプローチの根本的な強さがあります。
セキュリティ対策は、内部のIT資産を守るだけでは不十分です。
「攻撃者の視点」でリスクを把握することこそ、現代の防御戦略に不可欠な姿勢です。
その第一歩として、企業はまず“自分たちが何を持っているのか”を正確に知る必要があるのです。
ASM導入によって浮かび上がった実際の脆弱性事例
ASMの導入によって可視化されたリスクの中には、企業にとって極めて深刻な影響をもたらすものも少なくありません。
表面上は安全に見えていたIT資産が、攻撃者にとっては格好の標的となり、実際に悪用された事例が報告されています。
たとえば、ある上場企業が導入したASMでは、旧キャンペーン用のドメインが複数放置されていたことが明らかになりました。
そのうちのひとつは、すでに第三者によって再取得され、企業ロゴや旧デザインを模したフィッシングサイトとして悪用されていました。
しかも、そのサイトのURLはかつて正規のメールマガジンなどでも使用されていたため、顧客の警戒心が薄れ、情報搾取が横行したのです。
別のケースでは、製造業の研究開発部門が使用していたWebサーバがそのままインターネット上に残されており、セキュリティパッチも未適用でした。
攻撃者はそのサーバの脆弱性を利用して内部ネットワークへの足がかりを得て、最終的には機密設計図面の一部が流出しました。
また、ある教育機関では、動画配信用の旧サーバがパスワードなしで公開状態にあり、そこから複数の講義用資料や履修者データが外部に流出していたことが判明しました。
これはASMでの調査によってようやく検出されたものであり、それまで長年にわたって無防備な状態が続いていたのです。
金融機関でも、開発中のAPIエンドポイントが本番と同様のドメイン下に配置されていたことで、APIテストログが漏洩したという報告があります。
その中には顧客の口座番号や内部処理の一部が含まれており、もし攻撃者がAPIリクエストの構造を把握していたら、大規模な不正アクセスにつながっていた可能性があります。
これらの事例から明らかなのは、**「気づいていなかった資産」=「守られていない入口」**であるということです。
企業のIT資産は日々進化・変化しており、それに伴って攻撃対象も刻々と変化します。
しかし人的リソースやシステムの都合で、更新停止・プロジェクト終了などに伴って資産管理の手が回らなくなる場面も多く、そこで生まれる“隙間”が狙われるのです。
ASMは、その隙間を正確に検出し、企業に「今そこにあるリスク」を突きつけます。
従来のセキュリティ運用では網羅しきれなかった非公式資産、期限切れの証明書、旧バージョンのCMS、委託先の残骸リソースなども、攻撃者と同じ視点であぶり出してくれるのです。
実際、多くの企業ではASMを導入した初期段階で、数十〜数百単位の“未知の資産”が検出されます。
その中には、IT部門が初耳というものも多く含まれ、部門間の連携や運用フローの見直しが迫られるケースが少なくありません。
これらの事例は、単なる過失では済まされないサイバーリスクへと直結するものです。
ASMの真価は、こうした「潜在リスクの可視化」にこそあるといえるでしょう。
ASM運用で直面する課題と誤解

ASMを導入すればすぐにセキュリティレベルが向上する――このような誤解をしている企業は少なくありません。
しかし実際の運用フェーズでは、ASMによって検出された大量の資産をどう扱うかという“別の戦い”が始まります。
もっとも大きな壁は、**「可視化された後の整理と対応の手間」**です。
ASMが検出するのは、想定外のドメイン、IP、URL、クラウドインスタンスなど多岐にわたり、これらに対する「所有者特定」「用途確認」「リスク判定」「対処方針決定」が求められます。
ところが、誰がそれを管理していたのか不明だったり、担当者がすでに退職していたりするケースも多く、作業は一筋縄ではいきません。
さらに、資産を削除・遮断すればよいという単純な話でもありません。
古いが現役のシステムが含まれている場合は、停止による業務影響が出る可能性もあります。
したがって、リスク対応には技術的判断+業務視点の両面が必要になります。
もうひとつの課題は、「運用の継続性」です。
ASMは一度きりの棚卸しではなく、定期的に攻撃対象領域をスキャン・更新し続ける必要があります。
今日発見されなかった資産が、明日追加される可能性は常にあり、ASMは“動的な攻撃対象管理”を前提としています。
ここで必要なのは、ASMをセキュリティオペレーションの一部として「組織内に定着させる」仕組みです。
たとえば、毎月のスキャンレポートをセキュリティ委員会でレビューする、資産分類の基準を統一する、各部門に棚卸し責任者を任命する――といった運用ルールが欠かせません。
また、ASMツールを過信してしまうことも危険です。
あくまで「検出ツール」であり、それ自体が脆弱性を防ぐわけではありません。
実際の保護は、検出後のアクション(遮断・更新・権限変更など)によって実現されるため、人の判断と組織の意思決定が常に必要とされます。
さらに進んだ企業では、ASMの出力結果をSIEMやSOAR、脆弱性管理ツールと連携し、インシデント発生前に封じ込めを実現する仕組みを構築しています。
こうした“ASM活用の成熟度”を高めることが、今後の競争力にもつながるでしょう。
ASMは魔法の杖ではありません。
それは、「攻撃者の視点で自社を見直すための鏡」です。
その鏡に映ったリスクに、どう向き合うかが真のセキュリティ運用の試金石なのです。
企業がとるべきASM導入後のアクションプラン
ASMの導入はあくまでスタート地点にすぎません。
重要なのは、そこから得られた情報をどのように運用に落とし込み、継続的なセキュリティ強化につなげるかです。
本章では、ASM導入後に企業が取るべき具体的なアクションプランを体系的に整理します。
まず、最初のステップは資産の整理と優先順位づけです。
ASMが洗い出した数十〜数百件に及ぶIT資産すべてを一気に対処するのは現実的ではありません。
そのため、次の4つの視点で資産を分類・スコアリングし、リスクの高いものから対応していく必要があります。
- 外部公開性(インターネットから直接アクセス可能か)
- ブランド・社名との関連度(顧客や関係者が信用しやすい見た目か)
- 機密性・影響度(個人情報、認証情報、機密ファイルなどが含まれているか)
- 攻撃経路になりうるか(社内ネットワークや他システムへの導線があるか)
これらの観点から「リスクマトリクス」を作成し、優先順位を明確にします。
その上で、緊急対応(遮断・削除・権限剥奪)・中期対応(パッチ適用・認証強化)・長期対応(設計変更・構造改善)に振り分けていくことで、効率的なリスク低減が実現します。
次に行うべきは、ASMの結果をセキュリティ運用プロセスに組み込むことです。
多くの企業では、ASMから出力される資産リストやアラートが単発の“レポート扱い”になっており、担当者レベルで止まってしまうことがあります。
これを避けるために、セキュリティ委員会やリスク管理部門との連携体制を強化し、ASMの情報が経営判断にも反映されるようにする必要があります。
具体的には、以下のような取り組みが有効です。
- 月次・四半期ごとのASM定期スキャンを標準化
- 発見された資産に対する対応期限と責任者を明確化
- SOCチームによる定例レビューにASMデータを含める
- 脆弱性スキャンやペネトレーションテストとの連携
- 他のセキュリティツール(EDR, SIEM, CASBなど)とのAPI連携による統合運用
また、ASM導入後の“改善サイクル”を設計することも忘れてはなりません。
ASMが検出した資産を分類・評価・対処し、その結果をフィードバックとして運用に反映させるPDCA型のループを確立することが、真のASM活用と言えます。
この際、全社的な資産管理ポリシーを更新することも重要です。
たとえば、新規に導入するクラウドサービスや外部パートナーには「ASM対象として事前登録を義務付ける」といったルール化が有効です。
また、Webサイトやアプリ開発時には、公開終了時のドメイン廃止やアクセス制御の徹底といった“終了フロー”も定義する必要があります。
さらに、ASMによる資産可視化は、ゼロトラスト戦略との親和性が非常に高い点も見逃せません。
ゼロトラストでは「すべての資産と通信を信頼しない」が前提となるため、そもそも“把握されていない資産”が存在する状態は致命的です。
ASMはこの前提を整える基盤であり、ゼロトラスト実現に向けた最初のステップとして位置付けるべきでしょう。
最後に、ASMの効果を最大限に引き出すためには、経営層の理解と支援が不可欠です。
脆弱性は技術的な課題であると同時に、企業価値を脅かす経営課題でもあります。
「見えていなかった攻撃対象を見える化した」ことで得られる安心感は、企業の持続的成長において極めて重要な要素です。
ASMの導入はゴールではありません。
そこから始まる攻撃対象領域の“管理”と“削減”という、継続的な取り組みこそが、企業を守る真のセキュリティ戦略なのです。
まとめ:ASMが浮かび上がらせたのは“気づかぬ攻撃対象”

ASM(Attack Surface Management)は単なるセキュリティツールではありません。
それは、組織の“見落とされてきた攻撃対象”を明るみに出し、セキュリティ戦略の根本を見直すきっかけを与える「可視化の装置」なのです。
本記事で見てきたように、ASMの導入により最も驚かされるのは、企業自身が把握していなかったIT資産の多さと、その脆弱性の深刻さです。
一時的に使われたまま放置されたサブドメインや、開発用のテスト環境、契約終了後の外注先クラウドなどが、インターネット上で生き続け、攻撃者にとって格好の入り口となっていました。
これらの資産は、従来のIT資産管理や脆弱性スキャンの範囲外にあることが多く、セキュリティ運用の“死角”となってきました。
その死角を、まさに攻撃者と同じ視点で洗い出すのがASMの最大の強みです。
つまり、ASMは「自分たちが攻撃される可能性のあるすべての面」を初めて“俯瞰できる”ようにする仕組みであり、従来の防御中心の考え方とは異なる、攻撃起点型の視座を企業にもたらします。
しかし、ASMを導入しただけでは意味がありません。
その先に待っているのは、膨大な資産の評価・整理・対応という地道な作業であり、情報システム部門だけで完結できる話ではありません。
現場の開発チーム、委託先、経営層、さらには法務部門も含めた横断的な取り組みが求められるのです。
また、ASMが示すのは“瞬間の状態”にすぎません。
クラウドやSaaSが当たり前となった現代のIT環境では、新しい資産が毎日のように生まれ、同時に使われなくなった資産が放置されるというサイクルが繰り返されています。
よって、ASMの価値を最大限に活かすためには、継続的なスキャンと改善のサイクルを定着させることが不可欠です。
PDCA(計画・実行・評価・改善)の枠組みに組み込むことで、ASMは単なるレポートツールから「運用基盤」へと進化します。
企業がASMから得られる最大の“学び”とは、**「自分たちの見えている範囲は、思っているよりずっと狭い」**という現実です。
攻撃者はその“盲点”にこそ注目している。
だからこそ、守る側もまた、盲点をなくすために視野を広げなければなりません。
それができる企業だけが、今後のサイバーリスク環境において生き残ることができるのです。
そしてもう一つ重要なのは、ASMを通じて得られるこの視点を、“経営の視点”と接続させることです。
セキュリティはもはやIT部門の責任だけでなく、ブランド、顧客信頼、事業継続、法令遵守などすべてに関わる経営課題です。
ASMが可視化するのは、まさに「見えなかった企業の輪郭」であり、その輪郭を正しく捉えることこそが、経営判断の質を大きく左右します。
ASMの導入は、単にセキュリティを強化する行為ではありません。
それは、企業が「自らの姿を正確に知り、攻撃者と同じ目線で自分自身を見直す」ための挑戦です。
そしてこの挑戦に取り組んだ企業だけが、本当の意味で“守る力”を持つことができるのです。
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